工場や公共施設で後から壁補強をする場合の勘所・効果的な工法
目次
後から壁の補強が必要になるケース
施工時には強度に問題がなくとも、年数が経過していくにつれて建物が劣化したり、設備を追加するために後から補強が必要となる場合がよくあります。
■よくご相談をいただく事例
・太陽光パネル設置のため
・地震の頻発、大地震発生へ備えるため
・設備の入替、更新による重量増のため
新耐震基準への対応
旧耐震基準で建設された建物は、現在の安全基準を満たしていない可能性が高いです。地震大国である日本では、建築物の耐震性を最新の基準に合わせることが非常に重要となっています。特に工場や公共施設は、多くの人々が利用する場所であるため、耐震補強は安全性確保の観点から必須と言えるでしょう。
老朽化への対応
建築後数十年が経過した施設では、建物の経年劣化により壁の強度が低下します。さらに、過去の地震による微細なダメージが蓄積され、構造的な脆弱性が生じている可能性があります。定期的な点検と適切な補強は、建物の長寿命化と安全性の維持に不可欠です。
設備増設時の強度不足
大型設備・重量物の設置により、既存の壁の強度が不足する場合があります。特に太陽光パネルなどの重量設備を後付けする際は強度が不足することが多く、補強が必要不可欠となります。設備導入前に構造的な検討を行うことが重要です。
設備事例:太陽光パネル、室外機、収納ユニット 等
後から壁の補強をする場合に押さえておくべきポイント
建築物の構造健全性の評価
補強を行う前には詳細な調査が必要です。建物の現状を正確に把握し、補強の必要性と範囲を慎重に判断する必要があります。非破壊検査や応力測定などの技術を活用し、客観的なデータに基づいて評価を行うことが重要です。
適した補強方法の選定
建物の用途、構造、既存の損傷状況に応じて、最適な補強方法を選択しなければなりません。
工法例
- 壁材の改修:既存の壁材をはがし、合板や丸鋼ブレースを入れ込み剛性を強化
- 筋交いの増設: 鉄骨ブレースやケーブルブレース、炭素繊維複合材の筋交いなどを組み込むことで壁の開口部のせん断強さを向上
コスト・施工期間
補強工事には多大な費用と時間がかかる可能性があります。施設の稼働停止を最小限に抑えながら、長期的な視点でコストと効果を比較検討する必要があります。
壁の補強を実施する際の流れ
調査・診断
建物の詳細な現状調査を実施します。鉄骨造の建物における診断には、「一般診断」と「精密診断」の2つのレベルで行われます。
一般診断では、設計図書を基に建物の耐震性能を評価します。図面がない場合でも構造図が再現可能であれば実施できますが、再現が不可能な場合は診断できません。
具体的には、X・Y両方向における構造耐震指標Is値および保有水平耐力指標q値を算定し、以下の基準で建物の耐震安全性を判定します。
判定の計算式
■ Is値(構造耐震指標)
- UN:劣化係数を表します。建物の老朽化や劣化の程度を反映した値で、現地調査データに基づき設定されます。
- E0:層の耐震性能を表す指標です。建物の各層が持つ耐震性能を示す値です。
- Fes:部材や接合部の塑性変形性能を基に決まる靭性指標です。部材の変形能力や接合部の強度を考慮した値となります。
- Z:地域係数であり、建物が建っている地域の地震リスクを反映した値です。建設省告示第1793号に基づき定められます。
- Rt:振動特性係数で、建物の固有振動特性を考慮した値です。建築基準法施行令に準拠して設定されます。
■ q値(保有水平耐力指標)
- Qu:層の保有水平耐力を示します。建物が地震時に水平方向に耐えられる力を表します。
- Fes:部材や接合部の塑性変形性能を基に決まる靭性指標です。構造部材の変形能力を考慮した値となります。
- Wi:該当層が支える重量を示します。建物内の各層ごとの荷重(重量)を考慮します。
- Z:地域係数であり、建物が建っている地域の地震リスクを反映した値です。建設省告示第1793号に基づき定められます。
- Rt:振動特性係数で、建物の固有振動特性を考慮した値です。建築基準法施行令に準拠します。
- Ai:階の変位係数を示します。建物の各階が地震時にどの程度変位(揺れ)するかを考慮します。
一般診断で「倒壊の危険性がある」または「倒壊の危険性が高い」と評価された建物や、大スパン構造や立体トラス系などの特殊構造を持つ建物に関しては精密診断が実施されます。
調査・診断の流れ
予備調査
設計図書や現地状況を確認し、基本データを収集。
一般診断
耐震性能の基本指標(Is値、q値)を算出し、初期評価を実施。
実態調査
重要な軸組や接合部の施工状況を調査し、部材寸法、溶接状況、ボルト接合、ダイヤフラム、発錆状況、柱脚などを確認。特に、溶接状況では突合せ溶接やすみ肉溶接の確認を行い、欠陥があれば精密探傷試験を実施。
精密診断
判定が不適合の場合や特殊な構造形式では、さらに詳細な診断を実施。
計画・設計
調査結果に基づき、補強方法の選定と施工計画を立案します。建物の特性や構造を考慮した綿密な設計が求められます。
また、施工前には部材の搬入や取り付けを考慮して施工場所の実測を行う必要があります。設計図に記載されている情報と現場の実態が食い違っているケースはよく見られ、補強部材が搬入できなかったりうまく取り付けができなかったりと、トラブルにつながりかねません。
確認項目例
- 搬入経路の扉や窓の大きさ、耐荷重:部材を搬入するための扉や窓の大きさに問題がないかを確認します。そのままでの搬入が難しい場合には、開口部を設けて施工する場合もあります。また、エレベーター等を活用して搬入する場合は耐荷重や運搬可能な長さ(大きさ)の確認も必要です。
- 施工場所付近の設備(装置や配管など):部材搬入や取り付けに支障が出る場合があるため、十分な注意が必要です。
- 躯体:躯体形状によっては部材の取り付けが困難なケースもあります。図面と現場の状態が不整合なことがよくありますので、正しく確認した上で計画することが重要です。
施工
設計に従い、補強工事を実施します。施工中は建物の安全性と作業効率に最大限の注意を払います。施工期間中は粉塵や騒音が発生する可能性があるため、周辺環境への配慮も必要です。
また、工法によっては施行実施中に建物自体の使用ができないこともあります。工場の生産ラインなど、稼働を止めにくい部分での施工では「居ながら施工」ができる工法をおすすめします。
壁の耐震補強事例
壁の耐震課題や事例については以下の記事をご覧ください。
壁における耐震課題と解決事例15選(工場・体育館ほか)
会社の大切な資産であり、日本の産業や多くの従業員とその家族の生活を支える工場。普段はコミュニケーションの場であり、災害時には避難所としても活用される体育館。
地震が起きた時も大きな役割が期待されているこれらの建物を地震で破壊されないために、壁の耐震補強の重要性は増してきています。大事な建物を守るためにどうすればいいのか、詳しく解説していきます。
後からの補強にも効果的な耐震ケーブルブレース
ここで、壁の耐震補強に活用できる「耐震ケーブルブレース」をご紹介します。
✔️ 壁面に設備や配管がある場合、基本的に移動させる必要無し
✔️ 既存ブレースがあっても基本的に取り付け可能
✔️ 施工のための準備も最小限
壁周りの設備の移動不要
耐震ケーブルブレースは柔軟性に富み、狭いスペースを通して設置することができます。作業員が一人しか入れないような空間にケーブルブレースを搬入し、片側の端末金具を下にいる作業員に向けて下ろして設置する、といった施工も可能です。
足場の設置も最小限で済み、既存設備や配管の移動が基本的に不要です。
(※ 場合によりますので、詳しくはご相談ください)
壁面への設備を避けての設置例
さらに、端末金具を入れても直径約2m以内のリング状にまとめられます。階段やエレベーターを使ってコンパクトに搬入することができるため、「長尺の鋼材が現場に搬入できるのか」といった事前の確認のための調査手間や、実際に搬入する人員の削減ができます。
壁を開孔しての水平ブレース設置
間柱を開孔しての軸ブレース設置
狭小空間での軸ブレース設置
座屈によるはらみ出し、耐力低下が生じない
地震の時はブレースに引張力だけではなく圧縮力も強く掛かります。細くて長い鉄骨は圧縮力を受けると鋼材がつぶれてはらみ出してしまい、壁を破壊する恐れがあります。実際に2016年の熊本地震では、このはらみ出し(座屈)による建物の損傷・崩壊が多発しました。
ケーブルブレースを構成するより線は引張力のみに抵抗し、圧縮力を受けた場合、柔軟に緩んで受け流します。このため座屈による耐力低下やはらみ出しが起こらず、建物を守ることができます。
低コスト・スピーディー
現場溶接や重機が不要で足場も最小限で済むため、工期を大幅に短くすることができます。また、複数グリッドに跨る屋根向けで建設技術審査証明(BCJ-審査証明-198)を取得しており、品質の観点からも安心してお使いいただけます。